公による排外主義に抗う―茨城県の「通報報奨金制度」について

「通報報奨金制度」という問題
茨城県は、外国籍の人々の「不法」就労の実態についての情報を一般市民から募り、県警による摘発につながった場合に一万円〜数万円程度といわれる報奨金を支払う「通報報奨金制度」を2026年度から始めると発表しました。
これは都道府県では全国初の取り組みとされており、その危険性が問題視されています。
背景には、茨城県における農業分野を中心とした「不法」就労の実態が指摘されています。入管庁によると、都道府県別の「不法」就労の件数は茨城県が3年連続で最多だったそうです。
茨城県は新年度から新しい情報提供システムを導入するため、ネットでの通報が可能になると言われています。
これに対して、3月2日、外国人人権法連絡会が「外国人への差別を助長し住民を分断する茨城県の「通報報奨金」制度創設撤回を求める声明」を発表しました。
この中で以下のように批判しています。
この施策、特に通報報奨金制度は、報奨金という「カネ」までつけ、「密告」に公的なお墨付きを与えるものです。外国人は社会の一員でなく、何をしてもかまわないと、県が自ら差別を煽る公による排外主義というほかありません。
当該制度によって外国人一般は取り締まり、密告の対象として、疑いの眼差しを向けられるようになることは明白です。住民を疑いの目で見る側と見られる側とに分断し、社会の土台である人びとの間の信頼を壊してしまうことを危惧します。
市民が市民を監視する
ネットを通じて市民が通報できる―。参院選、総裁選、衆院選と3回の選挙戦を通じて、排外主義とレイシズム的風潮がさらなる強まりを見せる日本社会の中で、こういった情報ツールを用いた比較的簡単な通報制度が、外国籍の人々に対するヘイトや偏見を助長することは容易に想像できることです。
一般市民による通報が可能となり、それに報奨金が支払われる。この円安と物価高騰のあおりのなかで、一般市民を監視の代理人にしてしまうこの制度について、外国人人権法連絡会は「公による排外主義」だと批判しています。
大井川和彦・茨城県知事は記者会見で「確認できた不法就労だけ警察に通報する仕組み。まじめにやっている外国人労働者まで不安に陥れるような身もふたもない話には絶対にならない」と答えたと言います。
大井川知事は「確認できた不法就労だけ警察に通報」と述べていますが、そもそもこの制度では警察に通報する前段階で一般市民による通報が可能となってしまっています。この制度の建て付け上、「不法」就労のケースにはならない外国籍者の人々も通報の対象となり得てしまうため、どう考えても人々の間で不安が生じるのは当然でしょう。
また、「不法」就労の問題は、雇用側の問題であって、外国籍の人々の問題ではありません。外国籍の人々をあたかも「不法」就労の主体であるかのように位置付け移民を犯罪化するかのような言説を広めない、それを助長する制度は作らない、という判断が求められます。
排外主義とレイシズムは境界なく広がる
しかも、当然のこととして「外見=国籍ではない」、「移民=犯罪ではない」にもかかわらず、移民に対する犯罪化:Criminalization of Immigration(外見などの様々な指標から移民と判断し、移民ならば何らかの犯罪にかかわっているだろうという人種差別主義)が、これまで以上に加速してしまうでしょう。これは、警察による人種差別的な捜査手法=レイシャル・プロファイリングのさらなる助長にもつながりかねません。
そして、この通報制度が一度開始されてしまえば、就労実態にかかわらず、「外見」や「外国ルーツとみなされる特徴(名前など)」をもとにして、一定の住民が他の住民からなんらかの犯罪を疑われてしまう可能性が生じ得ることも問題です。つまり、実際に「外国籍であるかどうか」「在留状況はどうか」にかかわらず「不法就労」が疑われ通報されるリスクが生じてしまい得るということです。これは、外国籍の人々が巻き込まれることのみならず、いわゆる「ハーフ」や「ミックス」と呼ばれるような外国にもルーツのある日本国籍者や、日本に長年暮らす在日コリアンなど特別永住者の人々をも巻き込んでしまうように機能しかねません。
もし「公による排外主義」が一度始まってしまえば、その後に住民の中で排外主義とレイシズムが拡散されてしまうでしょう。これは、行政が歯止めを効かせられるようなものではなくなってしまい、境界なく広がっていきます。
市民にお互いがお互いを監視させるようなシステムを行政が導入するのは統治システムの強化ともいえるでしょう。これでは、住みよく安心安全な暮らしが阻害されるばかりではなく、排外主義を助長し、多文化共生の理想とはかけ離れたものとなってしまいます。
ICE(移民関税捜査局)による不当な取り締まりが社会問題となった米国ミネアポリスでは、ICEの捜査官やかれらの車両が市街地に現れたことを住民同士でお互いに警戒するために笛やクラクションを鳴らしたりネットツールを用いて情報を知らせあったりし、排外主義やレイシズムに対する抵抗と連帯が示されていました。今回の茨城県のケースはまさに、こういった住民同士の連帯や地域コミュニティの結束を崩してしまいかねません。
しかも今回のケースは都道府県初の取り組みといわれており、同様の通報制度が全国の他の自治体にも広がってしまいかねません。いまここでしっかりと撤回すべきという意思を自治体に対して示していく必要があります。現在茨城県ではこの制度にまつわるパブリックコメントを3月25日まで募集しています。
人権を根底にすえた多文化共生を
外国人法連絡会の声明にもあるように、国連の自由権規約委員会によると、日本国籍や在留資格の有無を問わず、まずは地域の人びとをひとしく「住民」として遇することが定められています。また、茨城県もその一員である、全国知事会そのものが、2025年11月に「多文化共生社会の実現を目指す全国知事の共同宣言(案)」という声明を発表しています。
差別や人権侵害のない社会の実現を目指す姿勢のもと、感覚的に論じることなく、 現実的な根拠と具体的な対策に基づく冷静な議論を進め、 外国人の持つ文化的多様性を地域の活力や成長につなげることで、地域社会を共につくる一員として包摂し、日本人、外国人を問わず、すべての方が安心して暮らし、活躍することができる多文化共生社会をつくっていきます。
今一度、基本的人権を根底にすえ、多文化共生のまちづくり施策をすすめるためにも、この人種差別と排外主義を助長する制度の撤回を望みます。
※人権や差別などに関わる社会問題について、定期的にニュースやエッセイを配信しています。
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参考
・朝日新聞「外国人の不法就労通報で報奨金、茨城県が創設へ 「差別助長」懸念も」2026年2月19日(https://www.asahi.com/articles/ASV2M343WV2MUTIL00PM.html)
・PBS NEWS, Minneapolis community defies ICE to warn immigrants of approaching agents, Jan 29, 2026(https://www.pbs.org/newshour/nation/minneapolis-community-defies-ice-to-warn-immigrants-of-approaching-agents)
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